「不安」なんかに人生の決定権を渡したらダメだ

少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である。

芥川龍之介 – 或旧友へ送る手記より

芥川龍之介は自死を決めた自分の心理をこのように表現し、35歳でこの世を去りました。偶然にも今の私と同じ年齢です。

連日、コロナウイルス感染症による報道が後を絶ちませんね。まるで日本国民が不安という病に侵されているかのように感じてしまいます。

不安という病はとてもやっかいで、人の正常な判断(理性)を狂わせ、ときに狂気ともいえる行動を取らせることがあります。

スーパーやドラッグストアからトイレットペーパーやティッシュ、カップ麺やパスタが消えたのは、決してデマに踊らされているからではなく、不安に取り憑かれているからではないでしょうか。

今日は油断するとすぐに私たちの心に入り込んでくるこの不安について少し考えたいと思います。

日本人は不安になりやすい!?

日本人は遺伝学的にも、とても不安を感じやすいと言われています。

その原因は脳内物質である「セロトニン」の働きにあるそうです。

セロトニンが多く分泌されていると、気分がよくなり心も安定しますが、逆に少ないと不安や憂鬱になり、不安定になります。

このセロトニンの伝達に関する遺伝子(セロトニントランスポーター遺伝子)について調査したところ、日本人はこの遺伝子の数が少ないことが分かったそうです。

もちろん、この遺伝子だけが人の不安や幸福を決定しているわけではありません。

ただ日本人は欧米人などと比較すると不安を感じやすい民族といえるかもしれないのだそうです。

不安の正体はなんだ?

では不安とは一体なんなのでしょうか。

キャリア・カウンセリングの場面で不安という言葉が相談者から語られるとき、それはさまざまな意味を含んでいますが、共通しているのは未来に関することであることです。

(逆に言えば、相談者が過去の事由から不安を語っているとすれば、それはなんらかのトラウマや不安症を疑うきっかけとなるのですが、今回は割愛します。)

とはいえ、不安=未来への心配というのは、ごくごく当たり前の感覚ですよね。誰も未来のことなんて分かりませんから、心配になる気持ちは分かります。(特に日本人は心配性の人が多いわけですし)

だから私は相談者から不安という言葉を聞いたときには、相談者が心に描いている未来について関心を持つようにしています。

例えば昨日、テレビでトイレットペーパーを買い漁る人に「なぜトイレットペーパーを買うのか」と質問をしていました。すると聞かれた人はこう言いました。

「だってトイレットペーパーが本当に品不足になった時に困るじゃないですか。だから今のうちに買っているんです。」

この人は「近いうちにトイレットペーパーが無くなる未来」を描いているんですね。その未来を不安に思った結果、今トイレットペーパーを買い漁るという行動を起こしたのです。

ようするに不安というのは、自分が想像した最悪な未来からやってきます。私が考える不安の正体とは、まさにこの妄想のことなのです。

不安に人生を決めさせるな

繰り返しになりますが、未来のことは誰にも分かりません。

なので、最悪な未来を勝手に想像し、勝手に不安になることはあまり生産的とは言えないと思います。こういうと「リスク管理が〜」という反論がきそうですけどね。

そんな反論がすぐに思いつくくらい不安の力というものはとても強いので、それに負けてしまう人は大勢います。

不安に負けるとどうなるでしょうか?

簡単に言えば、不安に人生を決めてもらうことになります。自分がやるべきはず、できたはずのことが、不安によって妨害されてしまう結果となるのです。

「不安だし、やるのをやめておこう」

あなたもこんな風になにかを諦めたことはありませんか?それはあなたが決断したのではなく、あなたが描く最悪な未来とそこからくる不安が決断したに他なりません。

不安と戦う武器こそキャリア・カウンセリング

私はキャリア・カウンセリングの主たる使命と価値は「クライエントの将来を描くこと」だと考えています。(ナラティブ・キャリアカウンセラーとして)

クライエントの描く未来が最悪から最高に変われば、今現在のクライエントの行動も大きく変わっていきます。

少なくともドラッグストアの開店に並ぶのではなく、自分が本当にやるべきことに目を向けられるでしょう。

不安に縛られて踏み出せなかった第1歩にも、勇気と好奇心を持って踏み出せるようになるのです。

不安に負けない未来を一緒に描いていくこと、これこそがキャリアカウンセラーにできること、やるべきことだと確信しています。

少し長くなりましたが、昨今の不安に包まれた日本の状況を見て、冷静な判断ややるべきことができなくなっている人に出会い、書かずにはいられなくなってしまいました。

本心としては、こんな状況だからこそ、本当は社会からキャリアカウンセラーがもっと必要とされてほしい…でも私みたいな個人にできることはあまりに少ない…そんな無力さも感じています。

もしも芥川龍之介の時代にキャリアカウンセラーがいたら…これは少し思い上がりかもしれませんが、そんなことを思わず考えてしまった今日このごろでした。
ではまた。

P.S.
キャリアグリーンでは、個人向けにキャリアカウンセリングを行っております。不安を感じていらっしゃる方は、ぜひ会いにきてください。

参考 キャリアコンサルティングキャリアグリーン