コロナ禍におけるナラティブ・キャリア・カウンセリングの有用性について

どうも、明けましておめでとうございます。杉山です。
すっかり久しぶりの更新となってしまいましたが、今年もコツコツとブログやら勉強会やらをやっていこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

さて、コロナ禍が始まってもう1年になろうとしていますが、いまだ終息の気配は見えていません。
こうした中でコロナによる生命の危機以上に深刻なのが、経済的なダメージや職業生活の設計が困難になることです。

ただ、実は2020年の倒産件数は2019年と比較して7.2%減少しているのはご存知でしょうか。助成金や給付金による支援によって、倒産する企業は少なく抑えられているのです。(ただし、今年はどうなるか定かではありません。)

一方で、コロナ禍以降の自殺率はどうだったかというと、昨年6月までの流行「第1波」では前年同期に比べ14%減少した一方、7月から10月までの「第2波」では16%増加したという結果になっています。

第一波では通勤や通学による精神的負担が減ったことによって、自殺率は抑えられたようですが、第二波では家庭にいる時間の増加によって母親にかかる負担が増えていることや、終わりの見えない、先の見えない状況を辛く思う人が増えたことによって、特に女性の自殺率が大きく増えているそうです。

コロナ禍は経済的なダメージと共に、人々の心に深刻なダメージを与え続けています。

このような先の見えない状況、コロナ禍に日々振り回される時代において、キャリア・カウンセリングの潜在的なニーズは非常に高まっていることを感じます。

実際、昨年の10月、11月に私が行った個人向けのキャリア相談の件数は平常月の2〜3倍の件数となっており、特に女性からの申込みが8割を占めていました。

その一方でまだ「キャリア・カウンセリング」というものが、それを必要とする人に十分認知されていないとも感じています。

「キャリア・カウンセリング」というものを知っているけど、自分には必要ないという方はそれで良いと思うのですが、その存在そのものを全く知らない人がほとんどであるという印象は、国家資格を受験した時から変わっていません。

自分のこれからの働き方や、今後の生活への不安について話ができる専門家がいることが、もっと多くの人に伝わっていけば良いと思うのですが、なかなかそうならないことに歯がゆさを感じ続けています。

ナラティブ・キャリア・カウンセリングの有用性

さて、前置きがやや長くなりましたが、このコロナ禍において、キャリア・コンサルティングには、いったい何ができるのでしょうか。

不安な気持ちに寄り添うだけでは不十分ですし、かといって有効なアドバイスや中長期のアクションプラン作成をしようにも、このような状況では裏目に出る可能性も高いと考えられます。(輝かしいプランを作り、それが全く叶わない事態を想像してみてください。飲食業の人はまさにそのような状況にあります。)

一寸先が闇の状況下において、私はナラティブ・アプローチを用いたキャリア・カウンセリングに有用性を見出しています。

このカウンセリングの特徴は、主に主観的なキャリア形成を支援することにあります。

伝統的なキャリア・カウンセリングが行ってきた支援は、主にクライエントが客観的なキャリアを形成できるようにすることでした。例えば希望する職を得るとか、転職するといったことですね。

つまり相談者の職務経歴や能力(可能性を含む)と、職業や会社をマッチングする支援です。

一方、キャリア理論の研究が進む中で、キャリアというのは客観的な面だけではなく、主観的な面も存在し、それが非常に重要であることもあきらかになってきました。

シャインはキャリアを内的・外的に分け、キャリア・アンカーの重要性を説いていますし、ホールはキャリアの最終目的を心理的成功だとしています。

それら以前に、エリクソンの提唱した「アイデンティティ」という概念は、私たちが生きる上で非常に重要であることに疑う余地はないと思います。

ただキャリア・カウンセリングにおいては、そうした主観的なキャリアが非常に重要であることは分かっていても、実際にその形成をどのように支援すれば良いのか、その明確な方法論は存在しないままとなっていました。

ナラティブ・キャリア・カウンセリングというのは、そうした主観的なキャリア形成を支援するアプローチ法の1つで、私が試行錯誤するなかでその有用性を実感できた方法となります。

ナラティブ・キャリア・カウンセリングの主たるテーマ(ゴール)は、クライエントが未来を自分自身で描けるように支援することです。

これはクライエントの職歴や能力からプランやスケジュールを作成する支援ではありません。

クライエントの語り(ナラティブ)から過去と現在に散らばる点と点をつなぎ、未来へとつないでいく支援です。

この過程でクライエントは自分自身と再開し、アイデンティティをより強固なものに再構成し、未来へと力強く歩んでいく力を取り戻していきます。

私はこのコロナ禍において、主観的なキャリア形成の重要性を実感しました。

「この先、どうして良いか分からない」というクライエントに対して、まず最初に必要なのは、希望する職に就くために逆算してつくられるアクション・プランではなく、クライエントが未来を自分自身で描けるようになる成長であることに気がついたのです。

客観的なキャリア形成支援は、そうした成長と合わせて行われていくほうが、よりクライエントにとって有用であることは、キャリア支援の実践者であればご理解いただけると思っています。

最後に、ナラティブ・キャリア・カウンセリングについて興味を持ってくださった方へ。
このアプローチが具体的にどのように進められていくのかについて、私が得た知見を話すイベントを企画したので、ご紹介したいと思います。

実践キャリアコンサルティング#1
「ナラティブ・キャリア・カウンセリングの実践」
https://careergreen20210130.peatix.com/

ナラティブ・アプローチ自体は、社会構成主義について理解する必要があるなど、やや複雑な理論的背景をもっています。

本イベントではそうした理論的背景に触れなからも、実践可能かつ実際に効果のあったアプローチ法と、それらを実践していく術について皆さんとお話できればと思っています。

コロナ禍を乗り越えるのに、キャリアコンサルティングの実践者はまだまだ必要です。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。ではまた!