キャリアカウンセリングをめぐる冒険その2「キャリア理論について」

春めいてきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。私はキャリアカウンセリングについてレッスンを行ったり、ハコミ・セラピーについての本を読んだりして過ごしています。(ハコミについても、後日ふれることになると思います)

今回のテーマはキャリア理論について書いてみます。私がキャリア理論について学んだ頃を振り返ると、実に楽しく学べていたように思います。なんだか理論って万能感がありますよね。

実際、キャリコンの受験生でもキャリア理論について学ぶのは、面白いと感じる方は多いのではないでしょうか。クランボルツやホールの理論に勇気をもらった方もいると思います。

反面、難しい理論名やカタカナの人物名を覚えることには苦戦された方もいるでしょう。あるいはこの理論を暗記して、いったい何の役に立つのか、と感じた方もいるかもしれません。

今回はいったいキャリア理論ってどう理解すれば良いのかについて、私なりの考えをまとめてみたいと思います。決して理論家一人一人の解説を書くわけではありませんので、ご安心ください。

キャリア理論に関する最も大きな誤解

キャリア理論に関する最も大きな誤解は「それ自体がなにか解決策を提示するもの」と捉えられてしまうことです。理論と名前がついていますから、その理論に当てはめれば正解が導ける!と思ってしまうのも無理はありません。

私はキャリア理論というのは、勝手に正解が導かれる方程式のようなものではないと思っています。なのでクライエントさんの状況をいくら理論に押し込んでみても、そこからなにかが出てくるということは、やっぱりないんですね。

そのことに落胆すると「なんだやっぱりキャリア理論なんて役に立たないんじゃん」と思われるかもしれません。でもそれは少し早計です。やっぱりキャリア理論はとても役に立つものだと私は思っています。

もしもキャリア理論がなかったら

キャリア理論がどのように役に立つかは、「キャリア理論がなかった世界」を想像すると分かりやすいかもしれません。

もしも、なんらの理論的なベースもないままで、クライエントさんの前に座ったらというのを想像してみてください。クライエントさんはあなたに自分の状況について、そして悩みや問題について語り始めます。

さぁ、クライエントの置かれている状況や心境、課題や方向性について、なんらの理論やメソッドもないまま向き合うとしたら、いったい何ができるでしょうか。

私には恐らくクライエントさんの状況や悩みを自分の過去の経験に置き換えるか、あるいは自分の知っている人物に置き換えて理解することしかできないと思います。

つまり自分の経験や知っている範囲でしか、自分の中のパターンでしか,クライエントさんを理解できないということです。

これではいくら人生経験が豊富な人だったとしても、さまざまな相談者に対応するのは難しいでしょう。仮に自分のよく知るパターンの相談だと思ったとしても、それが本当にそのパターンであるのか、自分の過去の経験を当てはめることが本当に有効なのか、そのことには必ず疑問を持たなくてはなりません。

このように考えると、キャリア理論というものがいかに支えてくれるものであるか、その有用性が見えてくると思います。

キャリア理論とは職業上のさまざまにおいて、クライエントさんをより深く、多面的に、間主観的に理解することを助けてくれるものなのです。

こうした理論があるからこそ、私は自分の経験や主観を超えて、より複雑に、深くクライエントさんを理解することができます。

キャリア理論の実際と限界

もし誰かのキャリア開発を支援したいと思うならば、キャリア理論については必ず知る必要があります。そうでなければ、自分自身の限界を超えてクライエントさんを理解し受容することは難しいからです。

しかし、同時に私たちはキャリア理論の使い方や限界についてもよく理解しておかなければなりません。それは「クライエントを理論に当てはめてはならない」ということです。

理論というはあくまでクライエントさんをより理解するための補助ツールあって、理論という型にクライエントさんを流し込むのは、手段と目的が入れ替わっていることに気づかなくてはなりません。

クライエントさんをそのような理論のパターンとして捉えてしまうことは、自分の過去の経験に当てはめることと、それほど違いはないのです。経験も理論もあくまで仮説の1つ、理解の補助の1つに過ぎません。

転機を迎えているクライエントさんだからといって、4Sを必ず点検しないといけないわけでもないですし、4Sが必ず役に立ってくれるとも限りません。

入社まもない社員の相談に「それはリアリティーショックだね。」と伝えること、あるいは思い込むことは、返ってそのクライエントさんのユニークな悩みに対して共感的に理解することを妨げるかもしれません。

私はよく「理論に使われてないだろうか」と自分に問います。そうでないと理論を使っているつもりが、その理論に面談を支配されてしまうことがあるからです。

最も大切なのは目の前のクライエントさんに対して、安全な、有機的な、共感的な存在としていることです。そして1つの語りの中に、さまざまな可能性や仮説を見出し、あらたな意味を受け取っていくことが私にできることだと思っています。

今回はキャリア理論についてのお話でした。実際にキャリア理論をどう組み立て、使っていくのかについては、どこかのタイミングでまた書いたり、お話する場を作りたいと思っています。

とりあえず今回はここまで。お付き合いいただき、ありがとうございました。