キャリアカウンセリングをめぐる冒険その10「関係性」

早いものでこの連載も10回目を迎えることができました。この冒険がどこまでどのように続くかは、私にも分かりませんが、書くほどにテーマは尽きませんのでまだしばらくはお付き合いいただければ嬉しく思います。

カウンセリングの関係性について

昨日は電車遅延の通知が来たせいで、すっかり尻切れトンボで終わってしまってしまいました。カウンセリングの関係性について、もう少し書きたいと思います。

ロジャーズに発する人間性心理学では、関係性が非常に重要視されています。一方でその他の心理療法、例えば認知行動療法などでは、関係性はベースにはあるものの、どちらかと言えば治療やアセスメントをうまく導入していくためのものという印象をうけます。

つまり「関係性こそがすでに援助的である」というのと「治療のための関係性である」という考え方ですね。

これはどちらが正しいというものではなく、どちらも(部分的に)正しいと思います。ただキャリアカウンセリングという場面では、特に治療(医療)行為を行うわけではないことを考えると、私自身はより関係性を重視する立場を取っているように思います。

では良い関係性を構築するにはどうすれば良いのかというと、これは皆さまご存知の「一致、受容、共感」が大切になってくるわけです。こと関係性にフォーカスすると特に「一致」の重要性が際立ちます。

一致というのは分かりにくい概念なので、これを語るとそれで終わってしまいます。それはまた機会にゆずるとして、ここではあえて一致を「純粋性」と紹介します。

クライエントの前で嘘偽りのない純粋な自分でいること、これが関係性の第一歩となっていきます。これがあってはじめて、クライエントさんの心情を受容したり、クライエントさんの視点で物事を見たりできるのだと私は思っています。

純粋な自分でいること

他人を前にして「純粋な自分でいること」は簡単なことではありません。これは訓練しなければ、身につかないことではないでしょうか。

私の中の純粋性にはいくつかのイメージがあります。ひとつは「大きな木」です。「このー木、なんの木、気になる木」ですね。そこにただ太く、しっかりと、優しく存在するものです。虫も鳥も拒まず、ただ在る。これを「質の高いプレゼンス」と呼んでいます。

このような質の高いをプレゼンスを実現するために、私は日夜、自分の言動を顧みたり、さまざま勉強を重ねているのです。中でも最近、特に勉強しているのが「武道」になります。

武道というのはカウンセリング同様に、人を相手にし、相手との関係性の中で成り立っているものです。武道と聞くと肉体的なものを想像すると思いますが、武道には精神があり、肉体を通して心とつながる方法がさまざま存在しています。

特に日本の弓道に関する書「弓と禅」という本の中では、はっきりと「腕の力によって弓を引っ張らず、弓を『精神的』に引くことを学ばねばなりません」と書かれています。力ではなく、心で射る。そんな世界が「道」にはあります。

また武道を学ぶなかで関係性においても、新しい発見がありました。それはとあるYouTube動画の中で先生がおっしゃっていたことです。

相手と動いていく中で自分の重心を安定しなきゃいけない。相手との関係性の中で軸を作らなきゃいけないので。

この言葉の中での学びは、私は「軸」「プレゼンス」というものを少し固定的に考えていたなという反省です。

大きな木も、さらに大きな土地との関係の中で存在しています。つまり、自分の軸も不変ではなく、相手との関係性の中で再構築されていくものなのかもしれません。

よく世間では「自分の軸を持ちましょう」というようなことが聞かれます。これは他人や社会に影響されない不変の自分を作りましょうというニュアンスだと思います。確かにそういうものが重要な場面もあるでしょう。

ただそれもまた変化が必要な日がくるのです。変化に合わせて重心を安定させ、関係性の中で軸を作る。これが私の次のテーマになっていきそうです。時間なので、今日はここまで。